第2話 パスポート取るまでが大変でした

 パスポート写真には細かい規定があります。背景は白で無帽。海は車椅子に乗っているの

で、頭の部分に車椅子のブルーの背もたれがどうしても写ります。しかも顔の向きの微妙な

調整が必要となり、家庭での撮影は無理。そこで近くの写真店の店員さんに事情を話すと快

く引き受けてくれ、早速作業所帰りの海を連れて撮影に。車椅子の背をギリギリまで起こし(通

常の角度では顔が正面から写らない)、ずり落ちそうになる海を下の方で支えます。店員のお

姉さんは椅子の上に立って高い角度から何枚も撮ってくれます。「お姉さん、10年間使うパス

ポー写真なんで男前にとってね。」こんなわがままな私のお願いに、お姉さんも超張り切ってシ

ャッターを押し、納得のいく証明写真が出来上がりました。しかし、その写真の背景には車椅

子のブルーの背もたれが写っており、“背景は白”という規定にひっかかるのでは?心配にな

ったので市のパスポート係に問い合わせたところ、「以前のパスポートにも背もたれは写って

いるが、ご本人の状態から仕方ないことなので今回も大丈夫です」とのこと。一安心し、海の戸

籍謄本を取ったうえで窓口に行ったところ、係員の顔が急に曇り嫌な予感が…。係員が県に

問い合わせた結果、「やはり背景があっては受付できません」と。えーっ?!この写真撮るのにど

れだけ大変だったか説明するも、答えは変わらず、仕方なく再度写真店に。

 車いすの背が写らなくするにはどうすればいい?背もたれなしでは、海は座位が取れないし

…。「そうだ!白のシーツを背もたれにかけて、ブルーの背景色をなくするイリュージョンっての

はどうだろう」。しかしいまどき、白のシーツなんてありません。押入れを引っ掻き回してやっと

見つけた1枚の白シーツ。店員さんに事情を話すと、背もたれに掛けたシーツのしわを丁寧に

直しつつ、またまたシャッターを押しまくり。やっと背景が白の照明写真の完成。なかなかの男

前写真です。

 いよいよパスポート交付当日、海を連れて市役所に。パスポート受けとりは本人が原則(10

年前は代理の母親でも大丈夫でしたが)。10年間有効のパスポート費用は15000円。収入

印紙を券売機で購入し窓口へ。窓口の職員も海の状態をみていささか緊張気味。出来上がっ

たパスポートの写真と海の顔をコンピューターで照合するのだが、顔がうまく照合の枠に入ら

なくて手こずる。何とか照合でき、いよいよパスポート手渡しです。職員は私に手渡そうとする

ので、「息子のですからあなたから本人に手渡しお願いします」。職員はっとわれに立ち返り、

慇懃丁寧に何とか笑顔で海に手渡してくれました。これで36歳までいつでも海外旅行にいけ

るよ、海くんやったね!

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